ファッションの世界で、フリーのファッションコーディネーターというのはなかなか見当たらない。化学繊維メーカーで素材と色の知識を積み重ね、独立した小森さんだからこそできる、色と素材を組み合わせた提案がある。
ファッションにおけるカラーコーディネートの極意とは? 色を仕事にする際に何を強みにするのか?
経験に裏打ちされた深いお話を伺った。 |
フリーのファッションコーディネーターとして
活動の場を広げる |
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小森さんは、フリーのファッションコーディネーターとして活躍なさっていますが、実際にどのようなお仕事をなさっているのか、お教えください。 |
セレクトショップのオリジナル商品の、素材とカラーディレクションの仕事を個別契約で行っています。また、ファッション業界を対象に開催される、トレンドカラー予測のセミナー講師を年4回務めています。
他にJAFCA(日本流行色協会)のレディスウェア専門委員、業界の社会人専門スクールや大学の講師などもしています。 |
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年に4回開催されるセミナーの内容は、どういったものでしょうか? |
セミナーは、春夏・秋冬シーズンに各2回開催しています。毎回4~5テーマ(コンセプト)設け、それぞれについて5~7色のカラーストーリー提案と、アイテムの色展開、スタイリングの配色についてお話ししています。インターカラーやJAFCA、プロモスティルなどのカラー予測機関がどういったカラーを打ち出しているのかを分析し、同時に素材やデザイン、小売りなどファッション業界の具体的動向を把握します。
さらに、生活者のくらしや文化など、時代の気分も分析しながら、次の時代に共感されるのはこのようなカラーではないか、と伝えています。その際には、オリジナルにプロセス印刷で作成した色見本帳とイメージ写真をつかって具体的に説明します。春夏・秋冬とも1回目はそのシーズンの全体的なカラー傾向とその背景について、2回目は具体的にアイテムやスタイリング面から人気となりそうな配色についてお話しするといった具合です。
受講者は、アパレル関係の方が多いですが、そのほかに、インテリア関係や文房具・化粧品メーカーといった女性向けの商品に関わる分野の方もお見えになっています。市場の一年先のセミナーなので、受講者の多くは、この色がズバリ売れますよということよりも、カラーの潮流全体に興味があり、色みの傾向を参考にしたいという目的で参加されている様子です。 |
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ブランドやショップにご提案の際は、ターゲット層を意識しますか? |
はい。ブランドのテイストやターゲット層によって、微調整が必要となるので、対象に応じてシーズンテーマを変えたり、カラーのトーンを微妙に変えたり、細かな要素を変えて提案しています。たとえばトラッドテイストのブランドに提案する際は、ベーシックなカラーを基本に提案することが多く、モード性の強いものやフェミニンなカラーは原則として入れないといったふうに、業態特性によって変えています。 |
1年先の提案も、半年先の動向に
左右されることも・・・ |
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小森さんがつくられるカラーパレットの元になる情報は、たとえばどんなところから得ていらっしゃるのですか? |
基本的に、どのお仕事についても押さえておかなくてはならないルーティンワークが、素材関連の情報です。パリで開催される国際生地見本市「プルミエールビジョン」へのリサーチをはじめ、国内の
主要大手生地問屋や、素材産地の生産者が出展する展示会、ジャパンクリエーションなどにも足を運び、素材の動向を押さえることが大前提となっています。
それから海外のプレタポルテコレクションもチェックしています。ニューヨーク・ロンドン・ミラノ・パリで開催される、影響力のあるブランドの最新スタイル動向は必ず把握します。あとは国内のアパレルメーカー、セレクトショップ、デザイナーブランドなどの展示会から店頭まで。全ては網羅できませんが、ベンチマークブランドを決めています。日本のファッション市場は海外とは違った独特の進化をしているので、常にチェックが必要です。もちろん、インターカラーやJAFCAなどトレンドカラーの先行情報の収集も重要ですね。 |
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1年も先のカラーの提案をなさるのは、大変ではないですか?どのように見極めてなさっているのでしょうか。 |
1年先のことをやっていても、半年先の動向によって、また1年先の打ち出しが変わってきますので、川下のアウトプット状況(現在の市場や半年先の動向)を見つつ、川上の準備(1年先のカラー提案)を微調整することはよくあります。
例をあげますと、今年の春夏に向けては、プリント素材が多く登場します。この数年ずっとノームコアやベーシックなど、無地ものが中心だったんですが、昨年の秋冬からベロアやベルベットなど、表情感のある生地がかなり出てきて、この春夏はさらに柄ものが出てくるだろう、チェックやストライプなどの先染め柄も出てきそうだ、といったことがすでに生地問屋の商品動向から予測されていました。
さらにその確信が持てたのが、春夏のプレタポルテコレクションが発表された、昨年の9月10月ぐらいです。そこで「あ、プリントが来春夏には出てくるな。日本の消費者にも支持されるな」という道筋が見えたので、来秋冬に向けた提案には多色使いのジャカードなどのさらに凝った素材と配色を提案する確信が持てたのです。で、提案資料にも柄ものを増やすなど微調整していきました。
ただ、海外プレタポルテコレクションが、若手デザイナーの台頭など、新スター誕生によって予測とはまったくちがう方向にダイナミックに変化することもあり、そういった場合は適宜修正していきます。 |
マーケットにないような新鮮な色と素材の
組み合わせを常に探す |
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小森さんが、色を提案されるときに心がけていらっしゃることは何ですか。 |
伝える仕事なので、常に、頭や心を柔軟にして、自分が素敵だ、いいなと思える色の受容範囲を広げられるように心がけています。ですので、客観的なデータや根拠は重視しつつ、最終的には主観で判断することがります。たとえ流行すると予測されている色でも、自分自身がピンと来ない色は提案しません。常に多くのものを見て自分の感覚を柔軟にし、感覚的判断ができるように心がけています。「これは素敵だ」という自分の思いをどれだけ乗せられるか、ある種の思い込みが、提案力にもつながりますので・・・。
単なる色の提案に終わるのではなくて、素材との組み合わせやコーディネートについても必ず伝えるようにしています。 |
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今後のカラーのプロに求められることは何だと思われますか? |
カラーの知識だけで、「私は○○をやれます」というのは難しいと思います。私にとっては「カラー+素材の知識」という結びつきが差別化できる能力と信じて磨き続けていますし、強みになったと思います。
私は、もともとは美術大学でグラフィックデザインの勉強をしていたので、ファッションの知識はほとんどありませんでした。卒業後、化学繊維メーカーのマーケティング部門に入社し、海外のファッション動向から国内の消費市場までを幅広くリサーチし、次に来るトレンドのカラー、素材、スタイルを予測し、ユーザーの生地メーカーへ企画提案する業務を担当したのが始まりでした。けれども、素材は非常に奥が深く、ひととおりの知識を網羅できたと確信できるまでに10数年かかりました。しかしトレンドカラーと素材の結びつきを学んだからこそ、今があるのではないかと思っています。
どのような分野にしろ、カラーの知識にプラスして、独自の専門性や、その人ならではのクリエイティブな発想のある方が、活躍を期待できるのではないでしょうか。 |
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